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大阪高等裁判所 昭和60年(ネ)1026号 判決 1986年1月29日

控訴人

大洋エステート株式会社

右代表者代表取締役

堀内正雄

右訴訟代理人弁護士

高澤嘉昭

林伸夫

被控訴人

オリエントリース株式会社

右代表者代表取締役

宮内義彦

右訴訟代理人弁護士

八代紀彦

佐伯照道

西垣立也

天野勝介

辰野久夫

中島健仁

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  申立

1  控訴人

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人の請求を棄却する。

(三)  訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文と同旨。

二  主張

1  被控訴人の請求原因

(一)  被控訴人は、昭和五七年七月六日控訴人との間に左記リース契約を締結した。

(1) リース物件 JDL二〇八モデル七GR(株式会社日本デジタル研究所製コンピューター)一式

(2) 売主 株式会社デジタル、賃貸人被控訴人、賃借人控訴人

(3) リース期間 六〇か月

(4) リース料及びその支払方法 昭和五七年七月から同六二年六月まで毎月一〇日限り金一三万三四〇〇円宛、但し、最後の三か月分合計四〇万〇二〇〇円を予め控訴人は被控訴人に預託する。

(5) 期限の利益の喪失 控訴人においてリース料不払等の債務不履行があつたときは、リース料残債務の全部につき期限の利益を失い、これに日歩四銭の割合による遅延損害金を付加して一時に支払う。

(二)  被控訴人は控訴人に対し右物件を引渡し、控訴人は被控訴人に対し右リース料のうち昭和五八年八月一〇日を支払期日とする第一四回までを支払つたが、同年九月一〇日を支払期日とする第一五回分以降の支払いをしない。

(三)  従つて、控訴人は、被控訴人に対し(1)昭和五八年九月一〇日を支払期日とする第一五回分のリース料金一三万三四〇〇円、(2)同年一〇月一〇日を支払期日とする第一六回分以降の残リース料合計金六〇〇万三〇〇〇円から同年九月一一日以降各支払期日までの商法所定年六分の率による中間利息金六九万〇七七六円と前記預託にかかる前払リース料金四〇万〇二〇〇円を差引いた残金四九一万二〇二四円、(3)以上のリース料金に対する期限の利益を喪失した昭和五八年九月一一日以降日歩四銭の約定遅延損害金を支払う義務がある。

(四)  よつて、被控訴人は控訴人に対し右(1)(2)の合計金五〇四万五四二四円及びこれに対する昭和五八年九月一一日から支払いずみまで金一〇〇円につき一日四銭の割合による約定遅延損害金の支払いを求める。

2  請求原因に対する控訴人の認否及び主張

(一)  請求原因(一)、(二)は認める。但し、リース物件の一式のなかにはプログラム七本が含まれているところ、うち二本の特注プログラムの引渡しをうけていない。

同(三)、(四)は争う。

(二)(1)  本件リース物件は、コンピューター本体と七本の付属プログラムよりなり、その両者を一式として金六〇六万二〇〇〇円という価格と月額一三万三四〇〇円というリース料が決定されたが、株式会社デジタルから昭和五七年七月一二日に控訴人に搬入された物件の中には、右七本のうちの二本(見積価格一〇七万円と九九万八〇〇〇円の特注プログラム)が入つていなかつた。控訴人において右特注プログラム二本の納入を免除したことはない。

(2)  被控訴人と株式会社デジタルとは、本件リース契約に関する限り一心同体であり、前者は本件リース物件の代金をリース契約という手段で回収することを図り、後者は実質上前者の代理人として、右契約を締結し、その履行をしたのである。仮に代理権が認められないとしても、民法一〇九条、一一〇条の表見代理関係があつた。

株式会社デジタルの債務不履行は、そのまま被控訴人の債務不履行とみることができるばかりでなく、前記特注プログラム二本の未納入は、賃貸人たる被控訴人の債務不履行であること明らかである。

控訴人は、昭和五七年九月一六日頃右未納入の事実を知り、遅滞なく株式会社デジタルに対して右納入を催告し、更に、昭和五八年八月二六日被控訴人に対し右納入を催告するとともに、相当期間内にその履行がないときはリース契約を解除する旨予告した。

(3)  控訴人は、被控訴人に対し昭和五八年九月九日到達の書面で右特注プログラム二本の納入がないことを理由に、本件リース契約を解除する旨の意思表示をした。

(4)  被控訴人主張の借受証により、常に苦情を申立てられないとするのは、信義誠実の原則に反し、公序良俗違反であり、権利の濫用である。

3  控訴人の主張に対する被控訴人の認否及び反論

(一)  控訴人の主張(二)の(3)は認めるが、その余は争う。

(二)(1)  未納入の二本の特注プログラムは、本件リース物件に含まれていない。

(2)  控訴人は、株式会社デジタルから納入された物件を本件リース物件とすることを承諾して借受証(甲第二号証)を被控訴人に差入れているのであり、リース契約上引渡未了物件はない。

仮に、本件リース物件に特注プログラム二本が含まれているとしても、控訴人は、株式会社デジタルとの間で右特注プログラム二本の納入を免除し、引換えに金二〇〇万円の支払いを受けることの合意をした。

(3)  本件リース契約は、いわゆるファイナンスリース契約であつて、利用者が自己の資金や借入金でリース物件を買いうけるかわりに、リース業者がこれを買いうけて利用者の使用、収益に供し、その売主に支払つた代金に金利、手数料等を加えた金額をリース料として利用者から回収するシステムである。

リース物件の選定は、売主と利用者との間でなされ、リース業者はこれに関与しない。リース物件は売主から利用者に直接納入される。納入された物件に機種、仕様の違い、作動不良等の事由があれば、交換補修等がなされるまで、利用者は借受証をリース業者に交付しなくてよいが、借受証がリース業者に届けられると、リース業者はリース物件の受領について利用者に異議がないものとみなすことができ、リース料の支払いを請求しうるのであり、債務不履行、瑕疵担保責任等を負うものではない。そこに信義則違反、公序良俗違反、権利濫用が成立する筈はない。

本件リース契約に関し、被控訴人と株式会社デジタルとの間に代理関係もなければ一心同体の関係もない。表見代理が成立する余地はない。

三  証拠<省略>

理由

一請求原因(一)、(二)の事実は、特注プログラム二本が本件リース物件一式に含まれるか否かの点を除き、当事者間に争いがない。

二<証拠>によると、右特注プログラム二本は、本件リース物件に含まれていたこと及びこれが未納入であることが認められる。

三控訴人は、右特注プログラム二本の未納入を理由に本件リース契約の解除を主張し、被控訴人は、本件リース契約はいわゆるファイナンスリースであるところ、控訴人において納入された物件のみをもつて本件リース物件とする旨承諾して借受証(甲第二号証)を被控訴人に差入れているから、被控訴人において債務不履行責任はない旨を主張するので判断する。

1 <証拠>を総合すると、次の事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(一) 本件リース契約は、いわゆるファイナンスリースであり、リース物件の選定は、コンピューター本体及び付属プログラムの種類、数量を含めて専ら売主である株式会社デジタルと控訴人との間の協議に基づいてなされている。

ところで、物件の納入は、被控訴人の立会いのないまま株式会社デジタルから控訴人に直接なされているが、リース期間は、借受証の交付の日から起算され、従つてこの日から物件を使用できるところ、控訴人は、本件リース契約に際し、売主又は被控訴人からリース物件の引渡しを受けたのち、一週間以内に検査のうえ、物件の借受証を被控訴人に交付すること及び物件の規格、仕様、性能、機能等に不適合、不完全その他の瑕疵があつたときは、直ちに被控訴人にこれを通知し、前記借受証にその旨を記載し、控訴人においてこれを怠つたときは、物件は完全な状態で引渡されたものとみなし、以後一切の苦情を述べないことを約した。

そして、控訴人は、昭和五七年七月一二日JDL二〇八モデル七GR(株式会社日本デジタル研究所製)一式を本日正に借受けたこと及び前記約旨を遵守することを誓約する旨記載した(瑕疵がある旨の記載は全くない)借受証(甲第二号証)を被控訴人に交付した。

(二) 被控訴人が右借受証の交付をうけ、売買代金全額を株式会社デジタルに支払つた後において、控訴人は、引渡しをうけたリース物件を使用中の昭和五七年九月頃、特注プログラム二本が未納入であることを知り、株式会社デジタルに対し、右納入を催告したところ、同社は、控訴人の五十川課長(後日退職)の指示によつて右特注プログラム二本を本件リース物件から除いたのであり、その代金相当の金二〇〇万円を同課長に返戻したと主張した。

ところで、右二〇〇万円は、株式会社デジタルから右五十川個人の銀行口座に振込まれた昭和五七年八月一〇日付近一五一万三〇〇〇円と同月一一日付四八万七〇〇〇円の合計である。

右五十川は、右二〇〇万円は販売促進協力としてのリベートであると主張したが、紛議を生じたので、これを返還すべく株式会社デジタルに提供し、受領を拒否されるや、同年一〇月二一日右金員を供託した。

2 右認定の事実関係によれば、本件リース契約は、ファイナンスリースであり、実質は金融目的であるうえ、特注プログラム二本は、控訴人の五十川課長と株式会社デジタルとの間の不十分な話合いの結果納入されなかつたのであつて、その話合いが不十分であつた点は控訴人と株式会社デジタルとの間で解決されるべき筋合いのものであり、被控訴人の関知しないことであるところ、控訴人は、約旨に基づき異議をとどめることなくリース物件一式を借用した旨の借受証(甲第二号証)を被控訴人に交付しているのであるから、被控訴人においては、借受証の交付をうけ、売買代金全額を株式会社デジタルに支払つた当時、現実に引渡された物件が一式であるとみなしうるし、被控訴人に帰責事由のあるような特段の事情は認められないから、前記約旨により控訴人においては、被控訴人に対し苦情を述べ得ないこととなり、特注プログラム二本が未納入であるとの数量の瑕疵を理由に本件リース契約を解除することはできないとしなければならない。

控訴人は、株式会社デジタルの不履行は、被控訴人の不履行と同一視すべき右両者間の代理ないし一心同体関係がある旨を主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。又、表見代理を認めるべき証拠もない。

更に、控訴人は信義則違反、公序良俗違反及び権利濫用を主張するがこれを認めるべき証拠はない。

3  してみると、控訴人が被控訴人に対し特注プログラム二本の未納入を理由に本件リース契約を解除する旨の意思表示をしたことは、当事者間に争いがないけれども、その意思表示は効力を生じないといわなければならない。

四そうすると、控訴人は昭和五八年九月一〇日の期日のリース料の不払いにより期限の利益を失つたことが明らかであるから、請求原因(三)は理由がある。そして、本件リース契約は解除されている訳でなく、該契約の実質は金融目的であるから、リース物件の使用・不使用によつてリース料から保守管理費が当然に控除されるべき理由はない。よつて、被控訴人の本訴請求を認容すべきである。

五以上の次第で、被控訴人の請求を認容した原判決は相当であるから、民訴法三八四条により本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官栗山 忍 裁判官惣脇春雄 裁判官礒尾 正)

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